三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・7



年末年始の急がしさに加え、連日の激しい行為とそれに伴う前日の寝不足が祟ったのか、幸田が目覚めた時には早めの夕食の時間だった。

「ん、、、、」

三城のベットのシーツではなく、自分の使い古した布団でもない、覚えの無い暖かいが重い寝具の中に幸田は居た。

ぼんやりとした思考が徐々に晴れ、ここが旅館でこれはここの布団だろう事を理解する。

細い幸田の身体の上に圧し掛かかり、なかなか身動きが取れないほどのそれは、旅館によくある座布団布団[ざぶとんふとん]だろう。

顔を横に向けると襖があるだけで、三城は居なかった。

反対側にも居ないという事は隣の部屋に居るのだろうか。

幸田はのそりと上半身を起こし、ハァとため息を吐く。

また三城の好きにされてしまった。

こんな事は頻繁にあったし、まともに幸田が抗えた事など一度もない。

いつも三城のペースで進んでいき、幸田は意識朦朧となってしまうのだ。

今回のように、はっきりと意識を取り戻すのは眠った後だ、という事が多い。

視線を落すと、幸田が着ているのは旅館備え付けだと思われる浴衣だった。

着替えた記憶はもちろんないが、幸田は驚きはしない。

ホテルでも三城の自宅でも、気を失ったまま眠ってしまう幸田を三城は必ず着替えさせたからだ。

最初はそれをありがたく思っていたが、最近では「無理矢理行為に持ち込んだんだから当たり前だ」くらいに思っている。

慣れた、というよりは、そう思うくらいでしか憤懣を表せないからだろう。

幸田とて三城との行為が嫌な訳ではないのだが、もう少し幸田の話しも聞いてもらいたいと思うのだ。

「はぁ、、、」

「止めて」と言いながらも結局流されてしまう自分にも非があるのだろうと、幸田は自分に嫌気を感じながら、もう一つため息を吐いた。

一人悶々としていても仕方が無い。

「新婚旅行」で揉め事など起したくはないが、一度きちんと言わなければならないだろう。

そう自分に言い聞かすと、「ヨシッ」と、幸田は疲れきった身体を奮い立たせて立ち上がった。

浴衣の乱れを直し、襖を開ける。

カラッ

はたして、その部屋に三城は居た。

ちゃぶ台と言うには高級感が漂いすぎるその机に向かい、三城はミニノートを開けて何やらをしている。

「起きたか」

襖の音を聞いたのか、カタカタと小さな音を立てながらタイピングをしていた三城は、直ぐにPCから顔を上げて微笑んでみせた。

その顔を見ると幸田はやはり何も言えなくなり、内心で自身に悪態を吐きながらちゃぶ台を挟んだ三城の向かいに座った。

「もう5時ですか、、、ずっと寝ちゃっててすみません」

「いや、そうさせたのは俺だからな」

相変わらず悪びれもなく言う三城は煙草を一本取り出して火を点ける。

天井に向かって煙を吐き出す三城の感情が幸田には読めなかった。

ただ、笑っていないように見えたのだ。

灰皿を見ると結構な本数の吸殻がそこにはあった。

吸わない幸田の前では控えているようだが、元々三城はヘビースモーカーだ。

苛立っている時は更に本数が増える事に幸田は最近気づいた。

旅行先にもわざわざ(元々そういった目的の物なのだろうが)持ってきたミニノートをチラリと見て幸田は口を開く。

「お仕事、ですか?」

「あぁ、でも大した事じゃない」

そう言ってみせると、三城は気にするなとばかりにPCの電源を落とした。

「すみませんでした、、、」

「大した事じゃない」事をしていたのは暇つぶしだろう。

なぜそんな事をしていたかというと、幸田が眠っていて暇だったからだ。

そう思うと、幸田は謝罪を口にしていた。

旅行先で相手をほったらかして眠るなど、なんて自分勝手なのだろうと罪悪感すら感じる。

眠ってしまった原因は全て三城にあるという事実を、一瞬にして忘れてしまったのだろう。

そんな幸田を三城は僅かに目を見開いて見るとクスリと笑い、手にしていた煙草を灰皿に押し付けて揉消した。

「やっぱりお前は可愛いな」

片手を伸ばすと幸田の頭をクシャリと撫でる。

「、、、可愛くないって言ってるじゃないですか」

恥ずかしげに頬を微かに染めた幸田は、照れ隠しに憮然と言い捨てた。

大抵の事は「ありがとう」と受け入れる幸田も、「可愛い」にだけは弱いのだ。

三城への苛立ちどころか、眠ってしまった事への罪悪感も彼方へと飛び去り、ただ三城の手の感触だけを感じて顔が綻ぶ幸田だった。



 
*目次*