三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・8



間もなくして運ばれてきた夕食は、幸田の想像を遥かに絶する豪華さだった。

船盛りに肉の鍋にと、食べきれないのでは無いかと思われるほどの量だったが、見た目以上に美味しい料理に箸は止まらない。

一緒に出された日本酒も、料理の味を邪魔しない、だがこくのある素晴らしいものだ。

ザルだと思われる三城は構わずに飲んでいたが、幸田は温泉に入る事を考えてアルコールの摂取をほどほどに控えた。

食事も終え、「夜も深くなる前に」と晩酌もそこそこに切り上げて二人は大浴場へと向かう。

到着して直ぐに三城により洋服を脱がされた幸田はすでに浴衣を着用していだが、三城は食事中もまだ服を着ており、温泉へ向かう前に浴衣へ着替えた。

長身に身に付けた浴衣はまるでモデルのように映え、幸田と同じもののはずなのに違った雰囲気に映る。

思わず見惚れてしたった幸田の視線に気がついた三城はニヤリと笑った。

「欲情でもしたか?」

「なに言ってるんですかっ」

下卑た言い方をした三城の言葉に幸田は顔を背けたが、その頬は微かに赤い。

欲情した訳ではないが、胸がドキっと鳴ってしまったのは事実で、幸田は三城にばれないようにため息を吐いた。

恋人に見惚れるなんて、悪い事ではないだろうが恥ずかしくないわけでもない。

当然と言うかやはりと言うか、大浴場に向かう道を三城が間違える事は無かった。

まるで迷路のような廊下を進み辿り着いそこも、これでもかというほど豪華だ。

洋式のホテルのように金銀に絢爛なわけではないのだが細部まで作りこまれており、正に「癒しの空間」という雰囲気だった。

脱衣所は無人で、二人は脱いだ物を入れる籠が置かれた棚の一番端に行くと浴衣を脱いだ。

幸田の白い肌から浴衣が湯べり落ちる。

ハラリ、と音が聞こえてきそうな仕草で脱ぐと、三城の視線に気がついた。

幸田が顔を上げてそちらを見ると、三城と視線が合うより早くタオルが投げつけられた。

「ちゃんと隠しておけ」

「、、、はい?」

三城の苛立ったような口調に、幸田は戸惑いながらも下肢部を隠したが、また三城の声があがる。

「上から隠せ。誰かに見られたらどうする?」

内心、「どうもしない」と思うも、そうとは言える雰囲気では到底なく、三城の真意を理解出来ないままも幸田は素直に従った。

「本当にお前は、、、」

ハァ、と深いため息を吐かれても、やはり幸田には意味がわからない。

男同士が男風呂に入るだけの事だろう。

お互いの身体なんて毎日見飽きているではないのか。

幸田が三城の身体を「見飽きる」事はないが、それは素晴らしい体躯だからだ。

男の裸体を見て興奮する男の方が少ない事を幸田は知っているつもりだったし、自分自身いくらゲイを名乗っていても誰にでも欲情するわけじゃない。

それを言うならば、幸田よりも遥かに引き締まった「良い身体」をした三城の方が危ないのではないだろうか。

幸田が自分の考えを伝えるべきか否かを逡巡して口を開きかけた時、その裸体を惜しげなク曝し下肢部しか隠していない三城が身を屈めて幸田の耳に唇を寄せてきた。

「そんな無防備にされてたら、襲いたくなるだろ?」

「何言ってるんですか」

まだ浴場にも足を踏み入れていないのに、幸田は湯当たりでもしたかのように真っ赤になった。

さっきからこの人は何をいっているんだろう。

数日前から何度したと思っている。

そうは思っても結局何も言えず、口をパクパクさすばかりだ。

ニヤリと笑った三城は、幸田の頭を掠めるように撫で、浴室へと歩き出した。

幸田もその後を追う。

幸か不幸か(幸田に取っては幸いだろう)、大浴場には先客がいた。

まじまじと見るのはお互い良くないだろうと、すぐに視線をはずしたが高齢の男性のようだ。

「残念だな」

三城はわざとらしく幸田の耳元で囁き、

「身体、隠しておけよ」

と少し低い声で釘をさした。

反論するのもバカらしいと、ため息混じりに頷き、言うだけ言って幸田を置いて行った三城を追いかける。

「待ってくださいよ、三城さん」

すでに湯船に浸かっている三城の隣に行き、そっと腰を下ろす。

少し熱めのお湯だった。

「そういえば一緒にお風呂に入るの、初めてですね。」

ハァと年寄り臭いため息を漏らした幸田は、その顔を三城に向けると、ニコリと笑って言った。

だが三城は何も言わずにじっと幸田を見つめだけで、暫くして口を開くと、ため息混じりに顔を背ける。

「お前の身体は目に毒だ」

その横顔を、キョトンとした幸田が見つめていたが、悪戯を思いつくとらしくもなくニヤリと笑った。

「三城さん、三城さん」

「なんだ、、っ、、」

幸田に呼ばれて振り向いた三城は、浴槽の淵に座り足だけ湯船につけた幸田が軽く足を開いているのを目の当たりにする。

「お湯、熱いですね」

何でもない風に言うと、いつもの仕返しとばかりにゆったりと微笑んでみせた。

「早く入れ!」

三城の激昂とともに、片腕を勢いよく掴まれ湯船へと引き摺りこまれたのだった。



 
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